『シリコンバレー精神』を読み終えて・・・
8月17日に読み始め,9月3日に読み終わってから,1週間程度経過してましたが,感じたことを一応記す。
技術者として飯を食う自分から見て,興味深く読めたのは3章のLinuxについて書かれた部分。98〜99年ごろの手紙とこのことで,同時代的にを見ているだけあって,今読んでみると「あれっ,ココまで強い断定表現をしていると違和感を感じるなぁ〜」と言う部分があった。
特に思ったのが,「資本主義に飼いならされたLinux」の一節。レッドハットの成功を引き合いにして,
「あどけない顔をした天才たち」は,あっっと言う間に資本主義に飼いならされたのである。
私は「これでオープンソースも面白くなくなってしまったな」と思いつつ,
ときっぱりと断定してしまっている部分。内容的には99〜00年頃に書かれたモノなのなのでしょう。(私的に99年頃は社会人1年目で,自分の仕事以外に目を向けるような余裕も無く,Linuxを取り巻く状況を特に覚えても居ないのだけれども。Linuxが商用ベンダからかパッケージ化されて出始めたのがその頃なのかなぁ。レッドハットが売っていたVineLinuxを購入した記憶もある。)
以下,その理由なのですが,
オープンソースに関して,ここ数年の自分の仕事と最も関わってきている一例が,組み込み機器におけるリアルタイムOS。ネットワーク機器を初めとする組み込み機器で欠かせないものがリアルタイムOSだけど,その流れもオープンソースに則って来ている。
仕事で扱う分野の機器で,99年当時使っていたリアルタイムOSはIntegrated Systems社(ISI)のpSOS。ISIはその後同じくリアルタイムOSを扱うWindriver社に買収され,同社のVxWorksに統合されていった。
基本的にネットワーク機器というのはチップセットベンダがある程度のリファレンスデザインを提供しており,それはチップとOSを含むソフトのセットで提供されてきている。当時ベンダが採用していたのが,pSOSとそしてVxWorksだったのだが,'04年の後半辺りからベンダはそれを変更し,「eCOS」なるOSを採用した。
まさにこのOSは,オープンソースでロイヤリティフリーのリアルタイムOS。当然使われているOSの変更は機器単価の下落を促してきたことになる。(eCOSはRedHatからの派生。)
ここ数年の全世界におけるブロードバンド普及の一端は,ネットにつながる為の機器の単価下落もあったわけで,梅田さんの言葉を借りれば「チープ革命」の上に成り立っており,その下支えの一つの柱となったのが他でもなくオープンソースだったはず。
と感じていたことによる違和感だった。
ただ,著者もその辺りは,「文庫のための長いあとがき」の一節「シリコンバレー精神でモノを書く」にてきっちりフォローされているようで,さすがだなぁ〜と感じた。
本書は「限られた情報と限られた能力で,限られた時間内に拙いながらも何かを判断し続け,その判断に基づいて」書いたものの集積だ。
断定的表現でモノを書き,それが多くの人の目に触れるということは,自らに強い緊張感を課すことになる。迷った挙句に強い表現をした文章は記憶に残る。
まさに,私の感じた違和感は,著者により意識的に書かれた結果生み出されたものなのだと,あとがきを読みながら痛感した。
これだけ変化の激しい時代においてモノを書くには,正しいことが正しいと実証されるまで待っていたのでは,書くに値しないネタになってしまう。その時その時で出来るだけの判断をして書き,後からそれをレビュー,必要に応じて訂正すればよいという一連を見た気がした。